ASEAN進出検討時の留意点(1/2)


本連載では、ASEAN進出検討にあたっての留意点を解説します。

進出検討フェーズはもちろんですが、進出以降の事業拡大フェーズにおいても同様に当てはまる内容です。


1. 情報の非対称性

国内市場と海外市場を比較する時にまず念頭に置くべきは、そこに情報の非対称性が存在するという事です。

国内、とりわけ自社の属する業界・業種であれば、各業界にネットワークがあり、業界における競合他社、サプライヤー、市場情報、更には有力な経営者や担当者まで、膨大な情報が頭に入っているでしょう。しかし土地勘が一切ない海外においては前提が全く異なります。言語の問題もあり、日本人が現地人と遜色なく、網羅的に情報にアクセスすることは実際のところ不可能です。


従って、構造的な情報の非対称性が存在し、各種定量・定性情報の不足により、非合理的な意思決定に踏み切ってしまうリスクを十分認識しておくべきでしょう。


特に、現地企業とのパートナーシップを模索する場合、相手方企業の組織文化やレピュテーション等は定量データとして補足する事が難しい一方で、協業の正否を左右する重要な要因となります。


当地の財閥系企業等、知名度や売上規模としては申し分ないが、パートナーシップを組んだ日系企業が軒並み暗澹たる結果に終わっている、という様な現地企業も存在します。ここで詳述はしませんが、そういった企業には何かしらの組織・企業風土に関わる、根本的な問題があると推察できます。


そういったソフトな情報も日本にいてはまず手に入らず、日本人の耳に入ってくる事もないという事は頭に入れておいた方がよいでしょう。



「小さく始める、但しスピード感を持つ」という事が海外事業に関してはよく説かれます。不確実性を前に延々と下調べを行うのではなく、むしろ不確実性は海外事業に限らず、経営として所与の要素であると捉え、当該リスクを考慮、最小化できる最適なスキームにより事業を推進する事こそが実務家として本来求められる態度です。しかし、重要な論点は見逃さない。これが鉄則であり大前提です。



2. 公的統計・民間データの不備・不足

公的統計・民間調査会社により市場情報が容易に入手できる日本は、先進国の中でもとりわけ恵まれた環境にあります。一方で、海外、特に新興国と言われる国々において同程度に行き届いた情報を取得する事は期待できません。


そもそも該当データがない、データが存在したとしても実態から乖離がある、という事例は私共が実際に行ったプロジェクト上も、枚挙に暇がありません。そもそも正確性に加え、意思決定に資する程度の粒度に分解された市場データが入手できることはほぼありません。


何より、データを検証する際に最も重要な要素である“肌勘”が一切存在しないにも関わらず、表面的なデータによって早合点し、意思決定をする事が不合理な判断を招きます。

現実的な手立てとしては一つずつ、足りない情報のピースを粘り強く埋めていくしか手段はないのです。


リサーチの鉄則は、一次情報を自ら取りに行くという事です。現地の実業のプロから直接に見解・見識を伺い、協議を重ねる過程で本当の意味で真実味のある仮説に至る事が出来るからです。その上で、仮説の蓋然性をデータによって検証、裏付けを図るというのが実効性ある“市場調査”です。


私共は海外事業戦略の立案支援を行う場合、先ず「徹底的に(現地企業オーナー・CEO、業界関係者と)会う」という事を推奨しています。それはこれまでの実務集積を通じ、そうする事ではじめて事業仮説を検証する事が可能である、という経験則に根ざしています。


3. 現地インナー・サークルへの障壁

海外市場には当地の有力企業や一族、トップクラスの教育機関等を核に形成された社会(=League)が存在します。そこで日本人は外国人=よそ者である、ということです。


エネルギーや金融、医療等の規制・参入障壁が高い業界であれば、行政や既得権益層との折衝が必要になります。


また、小売や製造業等、比較的参入が容易が業界であっても、商業・工業用地の取得や人材採用を、日本人が効率的に行う事は実際のところほぼ不可能です。何の工夫もなく、良い物件、良い人材が日系企業にやってくる、ということを期待するのは現実的ではないでしょう。


だからこそ経営の三大資源といわれる「ヒト・モノ・カネ」のうち、特に「ヒト」の問題、つまりは「誰と組むか」という事が決定的に重要となるのです。


しかし、海外において尚、日系企業とのパートナーシップを模索する日系企業の例も少なく有りません。しかし、それではいつまで経っても日系企業のサークルの枠内に留まることとなり、いずれは販路も頭打ちとなります。


そして、「誰と組むか」という論点において留意すべきは、属人的な関係(=コネ)に頼らないこと、そして必ずビジネスとしてフェアな関係を構築するという事です。

所属は異動するものであり、気づけば責任者、担当者が変わっているという状況は多々あります。この点、日本の様に終身雇用制の時期を経る事がなく現在に至った海外・新興国の人材市場の流動性は総じて高く、2~3年の周期で転職するのが通常という事も留意されるべきです。


現地の大手財閥との提携をもってよしとする風潮も依然ありますが、実態をみればパートナー企業に都合よく利用され、経済的な実入りは著しく少なくデッドロック状態に陥っている例も見られます。そもそも契約内容としてフェアなものであるか、その吟味を十分に行った上で、提携を行う必要があります。



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