ASEAN進出検討時の留意点(2/2)



本記事は前回に続き、ASEAN進出検討にあたっての留意点を解説します。


4. コンプライアンス上の諸論点

海外だから、という枕詞でコンプライアンスの緩みを安易に許容する事は重篤なリスクを招きます。


例えば、外資規制を回避する為のノミニー(名義貸し人)利用など、法的なリスクが抱えながらも実務上は常態化しているようなスキームについては、原則として慎むべきです。名義上のローカル株主が正当な権利の存在を主張し、日本企業が敗訴した判例も実際に見られるところです。ノミニー利用のリスク・裁判例については別途、こちらの記事で解説しています。


とりわけ、M&Aを検討する場合には、二重帳簿、簿外債務、アンダーテーブル(裏金)の問題が日本とは比較ならない程頻出する事に留意されるべきです。


現地アドバイザーの間では、「帳簿はいくつある?」「数字はクリーンか?」という様な会話が実際によく行われます。


取引価格の算定の基礎にかかる認識が擦り合っていない状態でデュー・デリジェンス(買収監査)に踏み切った企業から、事後的に相談を受けたケースもあります。蓋を開けてみれば実態と大きな乖離がある事が判明し、文字通り検討に際して支払った費用を“溝に捨てる”結果になった事例も見られるところです。


同様の理由から、日本では一般的とされる、教科書的な取引スキームを安易に転用する事は大きなリスクとなります。その際、当地の税制や許認可制度、雇用契約の変更等の初対応にかかる諸コスト等、付随的に検討すべき各論点を網羅的に勘案した上でメリット・デメリットを比較衡量する事が必要となります。


現地パートナーにコンプライアンス上重要な問題がないかを見極め、万一発見した場合はどのように取引スキーム面や契約条項において対処し、リスクを排除・最小化するかという事を考える必要があります。


5. 社会的・文化的な相違

海外案件が難航する要因としては、社会的・文化的な相違というソフト面も特有の障害となりえます。


現地パートナーとの協業に関する交渉段階においては、現地で求められる社会的・文化的なプロトコル(行動規範)に配慮した上で議論のテーブルにつき、一方で自分達が求める情報を引き出し、投資判断を行い、条件のすり合わせを有利に進めていくという繊細なコミュニケーションが求められます。


例えば、M&Aの交渉においては、アジアによく見られる「所有と経営」が一体化しているファミリー・ビジネス、オーナー系企業の場合、提案内容・取引条件は勿論ですが、相手方の社風、担当者の人となりも含めて判断しようと考えているのが常です。


現地で実業を行う彼らにも面子(フェイス・イシュー)があります。当然、適切な対応を欠けば、相手方としてもわざわざ議論を続ける理由はありません。従って仮に自分達が買収側であったとしても、今後の戦略や買収後の組織体制を含めた自社方針を説明することで魅力づけを行い、相手方の意向固めを行っていく仕掛けが必要になります。


この点、たとえNDAを締結できたとしても、NDAはあくまで(双務或いは片務の)秘密「管理」態様としての守秘義務を定めたに過ぎず、相手方に対する「回答」の義務を意味するものでは決してありません。一方的に質問を投げかけるばかりで礼節ある“協議”の姿勢を持たないようでは、本来まとまる話も破談に終わってしまいかねません。



加えて、日本的なビジネス上の礼節・作法が、相手方には逆効果であり、むしろ心証を損ねてしまう、という場合もあります。例えば、日本人は、相手の期待値を過度に高めないようにという配慮から、不確実性が伴う事柄につき約束したと捉えられかねない発言を避ける傾向にありますが、これは相手方のカルチャーとコミュニケーションの文脈によっては、「コミットメントが足りない」という否定的な評価がされてしまうことがあります。


また、交渉完了後の経営統合(いわゆる、PMI)においても、相手方企業のマネジメント、スタッフとどのように関わっていくかということが一層、重要になります。


特に、出資・買収等の資本的取引にかかる提携交渉はアドバイザーが主導することになり、かつ議論の対象も当該取引の成否にかかる重要論点に集中する事になる為、コミュニケーション上の問題が顕在化し辛いという構造にあります。


しかし、いざ実際の経営の現場になれば、M&Aアドバイザーはその役割を終えており、本来の主役である各社同士によって、現場の経営に当たらなければなりません。これは、考えてみれば当たり前の事ですが、交渉の最中から意識しておくべき重要な視点です。


なお実務家の間では一般に、M&Aの8割はPMI(買収後の経営統合)の成否に左右される、と言われる事があります。買収以降のプロセスの重要性については改めて認識しておくべきでしょう。




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