ASEAN事業パートナー探索の実務手法


本稿では、パートナー探索の具体的手順について解説します。ASEAN地域のクロスボーダーM&A・合弁組成を専業とするアドバイザリー会社として各種支援を行う中で確立した、KCP流「成功の方程式」をご紹介しています。


1. パートナー探索のアプローチ類型

パートナー探索のアプローチ手法は、大きく2つあります。


a) ターゲット・アプローチ(ターゲットが定まっている場合)

当該企業のオーナーに接触・面会し、協業(M&A・合弁)の提案を行う。


b) ロングリスト・ショートリストアプローチ(ターゲットが定まっていない場合)

パートナー候補に求める外形的要件(売上規模、業界・業種、設備、拠点・店舗数等)を定めた上で、候補となりうる企業群を洗い出す(=ロングリスト)。その後、定性要件等による追加的な評価・スクリーニングを経て(=ショートリスト)、各候補先オーナーと接触・面会し、最終的に協業(M&A・合弁)の提案を行う。


「a)ターゲット・アプローチ」を採用できるケースは限定的となります。

というのも、日本企業にとっての海外市場には構造的な情報の非対称性が存在し、「そもそもどの企業をターゲットにすればよいか分からない」、という場合が殆どであるためです。


例外的場合を除いて、殆どの日本企業は「金融機関やM&Aアドバイザーから“売り案件”(事業譲渡希望)の持込みがあったので検討した」、という受け身のパートナー・案件ソーシング探索活動に頼っているのが現状です。


しかし、まさに“戦略的”に海外事業に取組み、その実現の手段として現地パートナーとの協業を目論むならば、場当たり的に「案件ベースで検討する」のが王道のアプローチと言えるでしょうか。


加えて、ASEANではかつての日本同様、“会社を売る” ことについてネガティブに捉える向きがまだ多数です。事業承継の課題があってもメンツの問題から外部に相談できない状況にある、ということです。


そのなかでも時折、“売り案件”が出る事もあります。但し、従前の日本と同様、財務的な問題を抱え、追加融資をつけられない様ないわゆる救済型の案件が目立ちます。しかし、ローカルの経営者が経営してうまくいかなかった会社を、現地の実情に疎い日本人が引継ぎ、立て直す事は限りなく不可能に近いでしょう。


また、万一良い“売り案件”が出れば、現地のクローズドなコミュニティで買い手がついてしまいます。


そこで縁のなかった話が金融機関やブローカー、様々な経路を経て海の向こうの日本企業にまで持ち込まれ、平時からの能動的な探索活動を怠っていた日本企業がこれぞ千載一遇のチャンスと前のめりとなった挙げ句に売り手ペースで交渉を進められ、やや苦しい条件ながらも妥協してしまう、という構図が日本企業のM&A実務の現実です。


なお、売り手起点でM&A交渉が行われる場合、売り手は最良の条件を引き出すべくアドバイザーを使って複数の買い手候補に同時並行して打診を進めていく事が一般的となります。


従って、この場合に交渉の主導権及び時間軸をコントロールしているのは売り手であり、買い手候補側は相手方の指定したプロセス(入札手続き等)に従い、限定的に開示された情報と予め仕切られた時間軸において検討を進めていく事になります。


2. 「能動的なパートナー探索」の利点 自社の戦略に沿った真に“戦略的な”資本提携を行うことを目指すなら、自社の戦略を明確にした上で能動的にパートナー探索を仕掛けていくしかありません。それが、私共が「b)ロングリスト・ショートリストアプローチ」を推奨している理由です。この手法を用いるメリットは以下の通りです。


§ 自社の戦略に沿った最適なパートナーを比較・検討する事ができる

§ 候補先が交渉しているのが自社のみという状況(事実上の相対交渉状態)を作る事ができる

§ 複数の候補先と同時並行して議論を進める事で、常に代替案を確保する事ができる


つまり、能動的に仕掛けることで初めて、自社の戦略から逆算したパートナー探索が可能となり、交渉の主導権及び時間軸をコントロールする事が出来ます。

一方で、このアプローチを採る場合には、特有の難所が存在します。


§ 現地企業の情報を十分に取得できず、質の高いパートナー候補リストが作れない

§ 候補企業オーナーにアプローチするコネがなく、そもそもアポイントが取得できない

§ 事業、財務・株式等に関するまとまった情報を入手できない

§ オーナーとの接触が出来ても、協業スキームの提案に至らない

§ 提供を依頼した情報がスムーズに出てこない

§ 交渉がまとまらない


M&A・合弁に関与するアドバイザーの提供価値は、企業価値の算定からスキームに関する助言等、テクニカルな要素が注目されます。

しかし、案件組成段階におけるアドバイザーの最も重要な役割のひとつは、現地の人脈・地脈、M&A・合弁取引に関する知見を総動員した包括的な支援体制により、情報収集と交渉条件の取りまとめをサポートする事です。


この点、現地企業の情報とリスト作成まではそれなりのものができたとしても、オーナーとのアポイント取得段階でつまずくことが多く見られます。この点、雇われ経営者や平取締役・役員、ましてや部長・課長クラスと面会できても、ことM&A・合弁に関する交渉という観点からは実利はありません。資本の移動を含む取引につき、決定権を持っているのはオーナーだからです。


M&Aありきとしていない相手方オーナーとの交渉においては、いかにして情報を引き出すか、いかにして刺さる戦略的提案をし、合意を得ていくか、という一連のプロセスにおいては、実務集積に基づく引出しを駆使した交渉戦術が正否を分けます。ただでさえ緊張感ある局面が続くM&A・合弁の交渉を海外企業のオーナー相手に行い、合意を獲得する事には暗黙知を含めたノウハウなしに実現できるものではありません。



弊社はASEANで10年以上の期間に渡り、日系企業と東南アジア(ASEAN)内企業間のM&A・合弁事業の組成・執行業務を専業として支援してきた唯一の日系アドバイザリー・ファームです。ASEAN各国のオーナーに直接アプローチできるネットワーク、実務蓄積と知見、ローカル企業との交渉力を含めた、“案件組成力”は我々独自の提供価値と考えています。


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