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インドネシアのM&A - 最新5事例でみる業界トレンド、実務動向 -



はじめに

インドネシアは2億6千万人を超える人々が住まう国として、ASEAN最大の人口を誇るのみならず、世界最大のイスラム教徒を擁する国です。近年では欧米系ベンチャーキャピタルの投資資金が活発に流入し、Gojek、tokopedia、traveloka等のユニコーン企業(一般に企業価値10億ドル以上、企業10年以内の非上場企業を差す)を擁するスタートアップ大国への変貌しつつあります。


本稿ではそんなインドネシアを対象とする日本企業によるクロスボーダーM&A概況について、最新事例に5件取り上げ、そこから見えてくる業界トレンド、実務の動向を解説しました。

 

事例①:電通、インドネシアのデジタルマーケティング会社を子会社化(2017年12月)

【案件概要】

電通はインドネシアの大手デジタルマーケティング会社であるバリュークリック社の全株式を取得、子会社化することで同社株主と合意しました。


バリュークリック社は2012年設立で、SEM(検索エンジンマーケティング)、SEO(検索エンジン最適化)などの領域でサービスを展開しています。電通は海外事業統括会社である電通イージス・ネットワークを通じてバリュークイック社の株式を取得し、バリュークイック社の株式取得後はインドネシア国内にあるデジタルパフォーマンス関連の既存拠点との合併など事業再編を予定しているとのことです。


【視点】

デジタルマーケティングに限りませんが、とりわけ新規性の高い産業領域においては事業を推進する人の採用が鍵となります。この点、「アクハイアリング(Acqui-hiring)」という用語にあるように、人材取得を狙いとするM&Aもよく見られるところです。SEM、SEOといった分野で新興国の人材プールにリーチし、自社で採用から教育まで行うよりも即効性が高く、確実な手段といえるでしょう。


電通社は既に同分野でインドネシアに現地拠点を保有していました。既に現地市場に関する一定の知見を蓄積し、オペレーションも軌道に乗った時期に現地企業の買収・既存拠点との統合によって、一気にスケールを拡大するという戦略に出た、という見ることができるかと思います。

 

事例②:日本たばこ産業<2914>、インドネシアのたばこ会社を買収(2017年8月

【案件概要】

日本たばこ産業は、インドネシアでたばこ事業を展開する PT. Karyadibya Mahardhika(売上高約560億円)と同社製品の流通・販売を担う PT. Surya Mustika Nusantara(売上高約476億)の全株式を取得することについて合意し、契約を締結したと発表しました。


インドネシアは世界第2位のたばこ市場で、たばこ葉にクローブを混ぜたクレテックたばこが約94%を占めています。JTグループはインドネシアで主に紙巻きたばこ事業を展開しているが、今回の買収によりクレテックたばこ事業の拡大を目指すものです。取得価額は約1100億円。取得予定時期は2017年12月期第4半期とのことです。


【視点】

人口2億6千万人を抱えるインドネシアは世界第4位の人口を有する国であり、経済成長に伴う消費市場の拡大は今後のアジア戦略の鍵となるでしょう。かつ、インドネシア独自のクレテックたばこがあり、文化的にも喫煙の習慣が残る国でもあります。JTは海外M&Aに積極的な日本企業として名高いですが、本取引によりクレテックたばこのノウハウと生産を抑える事になり、インドネシア市場への参入本格化にむけ大きな一歩を進めたと理解できます。

 

事例③:共同印刷<7914>、インドネシアのラミネートチューブメーカーを子会社化(2017年4月

【案件概要】

共同印刷はインドネシアの持ち分法適用関連会社PT Arisu Graphic Prima(売上高約5億7700万円)の株式を追加取得し、子会社化することを決議しました。株式の所有比率を23.4%から96.2%に引き上げ、経営権を取得します。


共同印刷は化粧品向けラミネートチューブ事業を拡大しており、2016年4月には東南アジアでの事業拡大を目的にPT Arisu Graphic Primaへ出資を実施済です。東南アジアでは個人消費の拡大に伴う高品質チューブ容器の需要増が見込まれおり、今回の子会社化で一層の事業拡大を目指しています。


【視点】

食品・医薬品などの最終消費財だけでなく、その周辺をとりまく素材分野も市場成長に伴う拡大が期待される分野です。包装業界もまさにその代表例といえるでしょう。

また、より付加価値が高い高品質チューブの需要増に期待したM&Aである事も注目されます。マクロ成長の過程で個々の市場セグメントも拡大し、所得の底上げにより、高品質製品の需要も伸長するというトレンドは全世界的に見られるところであり、本取引もその潮流を見込んだものであるといえるでしょう。

 

事例④:ホッカンホールディングス<5902>、インドネシアのDELTAPACKから飲料用パッケージ製造事業を取得(2018年10月

【案件概要】

ホッカンホールディングスはPT. DELTAPACK INDUSTRI(DPI、ブカシ県南チカラン)グループから飲料用パッケージ飲料製造事業を取得することを決定しました。ホッカンが12月に設立する現地子会社PT.HOKKAN DELTAPACKが事業を引き継ぎます。新会社にはDPIも20%を出資し合弁運営するとのこと。事業の取得価額は約95億円です。


【視点】

ホッカングループは新設する子会社を通じて事業を承継しますが、スキームとして(株式譲渡によらず)事業譲渡によっている事はポイントといえるでしょう。株式取得の場合、簿外債務等引き継ぎのリスクを抱える為、長所・短所を検討した上で場合によっては事業譲渡スキームによる事が望ましい場合があります。


また、本M&Aによりホッカングループはインドネシアに本格参入を果たす事になりますが、既存オーナーも20%の株主として残留する事で、事業マネジメントについても引き続き株主としてのコミットメントを求める事ができ、スムーズな事業承継のプロセスに期待できます。

 

事例⑤:ノダ<7879>、インドネシアの建材会社SIWIを子会社化(2018年1月

【案件概要】

ノダは、インドネシアで建材製品の製造を手がける持ち分法適用関連会社PT.SURA INDAH WOOD INDUSTRIES(SIWI社。資本金600万米ドル)の全株式を取得し、子会社化することを決議した。ノダはSIWI社の発行済み株式49.58%を保有するが、今回、合弁パートナーのPT.BARUNA INTI LESTARI(BIL社)からその持分(50.42%)を追加取得します。


SIWI社は1990年に合弁で設立され、主にインドネシアの木材資源を使用して日本向けに建具や造作材、収納家具など住宅用内装建材を製造してきました。合弁相手のBIL社が木材加工事業から撤退するのに伴い、同社から保有株式譲渡の申し出があったとのことです。



【視点】

日本に比べ土地勘の乏しい海外事業では、合弁組成による進出というスキームもよく見られるところです。その合弁の運営過程で蓄積されるマーケットの知見はまさに現場でしか得られないノウハウであり、単なる市場調査では得られない実業の知恵であるとして、フィージビリティスタディも兼ねて小さく、スピード感をもって事業を推進すべく合弁立ち上げを行うケースもよくあります。


結果、本合弁は今回の取引によって、ノダによるパートナー持ち分の完全買取により、今後はノダ単独によって運営されていく事となりますが、20年続いた合弁会社運営の中で得られた現地市場のネットワークは決して一朝一夕に得られたものでなく、今後の事業展開の中でも大きな財産として生きるものとなるでしょう。

 

インドネシアのM&A市場の概況・投資環境につき、理解を深めて頂く事ができたでしょうか。なお、本稿はあくまで全体像を理解頂く事に主眼を置いています。個別のご相談につきましては弊社担当者が直接承りますので、お気軽にご連絡下さい。


最後までご覧頂き有難うございました。

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