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タイの投資環境 - マクロ情報、外資規制、企業法、会計基準等 -


はじめに

世界三大スープのひとつに数えられるトムヤムクンを始めとするタイ料理、ワット・プラケオ(エメラルド寺院)を始めとする綺羅びやかな仏教建築を有するタイは、東南アジア最大かつ世界第6位の観光国であり、日本人にとっても人気の旅行先です。

一方、「アジアのデトロイト」と言われる様に自動車産業で裾野の広いサプライチェーンを有し、トヨタ自動車や本田技研工業等、日本の産業を牽引してきた大手自動車メーカーが軒並み当地に組立工場を構え、また、昨年2019年度に中国にその座を譲るまで長らく日本がFDI(海外直接投資)の首位国で有り続けてきたなど、日本産業との結びつきも大変深い国です。

タイはASEANにおいて比較的成熟した経済国家であると言われます。この点、2018年にJETROが実施した「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」アンケートによれば進出済日系企業のうち52%が今後事業を拡大、45%は現状維持と述べ、縮小・撤退と回答した企業は3%に留まる等、今後も日系企業の東南アジア拠点の一角として主要な立ち位置を維持していくものと思われます。


本稿ではそんなタイの市場概況について、最新動向から外資規制に関する情報まで投資環境の全体像を解説しました。

 

基本情報

  • 首都:バンコク都

  • 通貨:バーツ (1バーツ:約3.5円)

  • 人口6,898万人 (2020年)

  • 平均年齢:39歳 (2020年)

  • 人口ボーナス終了年:2031年

  • 政治体制:立憲君主制

  • 主な宗教:仏教 (94%)

2014年にプラユット将軍率いる国軍が軍事クーデターを起こし実権を掌握して以降、軍事独裁政権が継続しており、昨今では民主化運動が活性化している点は注視が必要です。また、アジア主要新興国のなかで最も速いペースで高齢化が進んでおり、高齢化の指標である「65歳以上人口比率」は現状の約1割から2030年代に2割を上回ると見込まれています。国連の定義によれば、65歳以上人口(高齢化率)が7%を超えると「高齢化社会」に突入すると言われていますが、タイの高齢化率は2002年にその値を上回っています。


 

マクロ情報

  • GDP総額(2018年、名目):約54兆円

  • GDP成長率(2018年、実質):4.1%

  • 貿易収支(2019年):約1兆円

  • 経常収支(2018年):約1.8兆円

  • 株式市場時価総額(2020年3月):約40兆円

  • 2年国債利回り(2020年3月):0.81%

  • 10年国債利回り(2020年3月):1.40%

  • 法定最低賃金:約1,000円/日

  • 非製造業・マネージャーの平均賃金:約20万円/月

  • 実質賃金上昇率(2018年):1.6%

  • 大卒割合(2018年):25.3%

  • スマートフォン普及率(2018年):71%

  • 日系企業進出数(2018年):3,925社

タイは国際協力銀行の「海外直接投資アンケート調査結果」でも、過去10年間連続で中期的な投資有望国にランクインしています。日系企業の進出数は東南アジア内で最大を誇りますが、これは世界でも中国、アメリカ、インドに次ぐ第4位です。経済成長に伴って大卒割合も25%を越え、ホワイトカラーの給与水準も底上げされていることからも伺われるとおり、従前のように単なる安価な労働力を目的とした進出ではなく、前述の様な産業集積、かつ付加価値の高い工程対処を可能にする現地人材の技能水準、そして消費地としての魅力による投資地と位置付けられているものかと思います。


なお、2018年におけるタイの一人あたり名目GPDは6,992ドルであり、これは東南アジア地域においてはシンガポールの64,041ドル、マレーシアの11,080ドルに次いで3番目に位置付けられますが、これは中所得国(5,000ドル以上)の定義に当てはまります。近年の経済成長に注目が集まるインドネシア、ベトナムがそれぞれ3,971ドル、2,590ドルである事と比べてみると、成熟した経済国としてのタイの姿が見えてくるように思います。


 

投資環境

1. 外資規制

タイには外国人事業規制法(Foreign Business Act)により、外資参入に関する規制が存在し、特定の規制業種については外資不可、「その他サービス業」等、大半の業種につき広範な制限規定が定められています。外資比率が「50%」(※特定の業種では49%)を超える企業は外国企業とされ、規制対象業種への参入は禁止されているので、BOI(タイ投資委員会)による投資恩恵による免除、或いは現地パートナーとの合弁組成による共同出資形態による進出が考えられます。


加えて、土地所有にかかる規制は別途、「土地法(Land Act)」が規定しており、外資比率が(50%以上ではなく)「49%以上」の法人の土地保有は原則不可であり、かつ外国人株主の「人数」が全株主の過半数を占めれば外国企業とみなされる点で、資本規制の基準とは比率・態様が異なる点に留意が必要です。


また、外国企業の最低資本は200万バーツ以上です。ただし、外国人事業法の規制業種に基づく、特別の認可を取得する必要のある業種の場合は、原則として最低資本は300万バーツ以上となります。


2. 企業法

  • 株主総会

普通決議は出席株主の議決権総数の過半数で可決されます。

一方で、一定の重要事項に関する特別決議は出席株主全員の議決権総数の「3/4以上」によって可決されます。この点、日本における会社法における特別決議事項の可決要件は2/3以上であるのと異なります。また、招集通知については個別の通知のみでなく、新聞公告が必須となる点等、各論の相違についても注意が必要です。


また、資本制度の特徴としては第三者割当増資が認められていない事などがあげられます。

なお、株主は少なくとも3名以上必要となります。

  • 取締役会

決議要件は過半数が原則となっています。任期は最長3年ですが、各期の定時株主総会において、1/3(或いは1/3に最も近い数)の取締役の退任が必要である点などが異なります。



3. 会計基準

タイでは会社の規模・業種を問わず外部監査が必須とされており、すべての会社が会計監査人を設置しています。

  • 公開会社(上場企業等)

IFRSに準拠したタイ会計職業連盟が定めるThai Financial Reporting Standards (TFRS)に従って財務諸表を作成する必要があります。2011年以降、順次IFRSとのコンバージェンスが進められていますが、尚異同はあることには留意下さい。

  • 公開会社でない企業

本会計基準はタイ独自の簡便的な会計基準である事から、IFRSと比較して様々な相違があります。例として、税効果会計の適用が任意であること、退職給付債務の計算上、年金数理計算を行わない方法が認められていることなどが挙げられます。


4. 税制

  • 法人所得税(表面税率):20%

  • 日本への配当送金課税(最高税率):10%

  • 日本への利子送金課税(最高税率):15%

  • 日本へのロイヤルティー送金課税(最高税率):15%

  • 付加価値税(標準税率):7%


 

最後までご覧頂き有難うございました。タイ国の投資環境につき、理解を深めて頂く事ができたでしょうか。なお、本稿はあくまで全体像を理解頂く事に主眼を置いています。個別のご相談につきましては個別にご連絡下さい。


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