本記事では、第二次世界大戦以降の各時代における、日本企業の海外進出のあり方、その変遷および今後取るべき打ち手と考えられる事項について解説します。
(ステージ1)- 第二次世界大戦後(1945年~1985年)
日本企業の海外進出を後押ししてきたのは、いずれの時代も製造業が中心でした。
第二次世界大戦後の日本企業の海外輸出の先陣を切ったのは、朝鮮特需に後押しされた繊維・鉄鋼等の業界です。その後、高度経済成長の期間、日系ナショナル・ブランド各社が国際競争力をつけ、Tier 1を中心とする日系サプライヤーと共に海外進出を加速しました。
この時期は日本企業の海外直接の投資が本格化した時代と振返る事ができますが、自動車業界(トヨタ等)及びエレクトロニクス(ソニー等)の二大産業により牽引されたものです。80年代は自動車・カラーテレビ等の耐久財、半導体・コンデンサ等の電子部品が海外市場を席巻しました。また、経営機能という点で見れば、これらは輸出ベースのマーケティング・販売機能強化、といった狙いが強い時期でした。
(ステージ2)- プラザ合意以降(1985年~2010年)
しかし、プラザ合意(1985年)以降の急速な円高(以降、ドル円は直前の240円台から1988年には120台まで下落)を経て、日系製造業の海外進出は日本からの生産シフトを狙った直接投資ベースの生産拠点の立地、生産、資材調達機能の移管を少なからず余儀なくされました。
製造業の海外進出の第二波として、製造業各社、とりわけ食品、日用品、化粧品、医薬品等の海外進出が活性化したのもこの時期です。
いずれも商材の性質上、内需志向の強い産業である為、海外進出の狙いとしてはローカル市場開拓を長期的な狙いとしつつも、短期的には安価な人件コストを確保するという意図が主眼でした。
(ステージ3)中国の台頭(2010年~現在)
2010年は世界、そして日本にとってとりわけインパクトあるニュースがありました。中国が日本を抜いてGDP世界2位となったことです。
以降もその経済成長は衰えず、政府主導の大規模投資・都市開発、“BATH”と総称される成長著しいメガIT企業群(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)等、時価総額で日本企業トップ各社を圧倒的に突き放すような存在感を持つ企業群が頭角を表しています。
呼応するかのように、「東南アジア諸国連合」たるASEANは域内連携の強化を図ってきました。中国、更にはインドという二大国家の躍進に対抗するように「単一の市場と生産基地」という理念・コンセプトを様々な具体的施策に落とし込み、2010年代には関税をほぼ全面的に撤廃、物流網・通関等のビジネスインフラ面でも規格統一を図る等、本格的な協働を活発化しています。
実際、ASEAN各国の経営者もASEANを一個の経済的有機性を持った“地域”と捉える理解は度々言及されるところであり、実際に域内諸国間での直接投資にも着手しています。
一方の日本はこの間、バブル崩壊以降の慢性的なデフレ・不況に苦しみ、総じて攻めの一手を打つことができない時期であったといえます。それは、海外戦略という文脈においても同じです。
今後の海外戦略 -日本企業各社が取るべき打ち手
このような時代的状況において、日本企業が取るべき海外戦略の方向性は、下記3点に集約されるでしょう。
1) マーケット・イン型への転換
2) コアコンピタンス・ノウハウ活用×ローカライズによる市場開拓
3) アジア域内リンケージの強化
「1. マーケット・イン型への転換」
日系製造業は総じて、輸出型モデル、移植型モデル時代の勝ちパターンからの脱却を図る必要があります。ジャパン・クオリティというワードに思考停止する例がまだ見られますが、それは単なるスペックの議論であり、ユーザー・消費者が何を求めているのかを起点に事業を行うべきです。
設備投資・R&D活動の予算額、国際認証取得、売上高成長・利益率等の財務数値、といった外形的指標をみた場合、日系製造業が新興国企業群の後塵を拝しているという例は枚挙に暇がありません。特に、日本企業がお家芸として誇ってきた「技術力」についても、IT分野等の新規性が高い領域については社会実装がスピーディーな中国・ASEAN(東南アジア)企業が日系企業に技術提供している例も見られるところです。
海外進出と言いながら“座標”が日本から海外に転じたに留まり、日系企業のサークルの中でしか仕事が作れないようでは、当然のことながら事業スケールとして頭打ちになります。しかし、それが日本企業の海外事業の現在の姿であり、今後、本当の意味での海外“市場”進出を図るならば、早急にこの意識を改める必要があるでしょう。
顧客・市場を起点としたビジネスプロセスのリエンジニアリングを行う、つまり営業、R&Dを含む経営機能の現地(或いは地域拠点)への委譲・集約により、スピーディーかつ現地ニーズに適合した商品開発、日本中心の高コスト体質の改革、現地人材の育成を行う事が、大枠の取組となると思われます。
その際、従前のタイムマシン型の勝ちパターン、つまり「“先進国”である日本の先進的ソリューションを新興国に展開する」という旧来の発想に縛られず、むしろ新興国市場をイノベーションの場として捉える視点も併せ持つべきです。
この点、日本は少子(超)高齢化社会、或いは先進国であるが故にイノベーションが大幅に制約されているという状況にあることは改めて自覚すべきでしょう。デジタル・ネイティブの若者中心の新興国と、世界一の“超”高齢化社会である日本、特にエンドユーザーが一般消費者である産業領域において、どちらがよりイノベーションに適した市場であるかは明らかです。
日本でもようやく、モバイルファーストと言われるようになりました。一方、新興国市場におけるインターネットインフラは、そもそも(PCではなく)近年急速に普及したモバイルこそ王道である、というような市場環境の相違も忘れてはなりません。
東南アジアでは、国民所得及び市場の急成長、変化に柔軟な若年層の存在、社会インフラの未整備、加えてテクノロジーのオープンソース化や中国系メガIT企業による先進的プラクティスの伝播を背景に、日本では遅々として普及が進まない領域でも社会実装が進んでいることも注目されます。
「2. コア・コンピタンス活用×ローカライズによる市場開拓」
これは海外進出済企業がローカル市場を開拓を目指す場合だけではなく、非製造業(小売業、卸売業、倉庫・陸運等のロジスティクス業、損保、外食、教育、観光)或いは内需型産業(鉄道業、都市開発業、湾港・空港関連業、不動産業等)にも当てはまります。これらの企業は製造業に比して進出時機が遅かった、という傾向がありますが、しかし、一足早く市場として成熟し、かつ競争過多の日本という市場で生き残ってきた内需型産業であるがゆえの見識、磨き上げてきたオペレーショナル・エクセレンスというものがあり、これらのノウハウを武器に十分新興国市場を攻める事は十分、勝ち筋が見込めるものと思われます。
「3. アジア域内リンケージの強化」
米中貿易戦争等、様々な領域で中国のカントリー・リスクが顕在化する中、アジア地域内・域外とのリンケージを意識した、全体最適を図る生産拠点の抜本的な再編・統合、拠点間の分業・連携を含む、グローバルでの一体的な機能の構築が急務となっています。派生的な効果として、先に述べた非製造業又は内需型産業各社も、この潮流と呼応し当地の日本企業のバリューチェーンに補完機能・アウトソース機能を提供することに新たな事業機会を見出すことができるでしょう。ロジスティクス、倉庫、産業不動産、人材派遣等が興味深い投資テーマとして注目されます。
現地パートナーとの協業による事業開発の重要性
上で述べた今後の日本企業の海外戦略にとって必要となる3つの打ち手(「1. マーケット・イン型への転換」、「2. コア・コンピタンス活用×ローカライズによる市場開拓」、「3. アジア域内リンケージの強化」)ですが、これらはいずれも“現地パートナーとの協業”によってしか実現することが現実的な解です。
自社単独で各国市場に関する知見、人脈・地脈を蓄積していく事は膨大な時間と人的リソースを費消するのみならず、打ち手としても余りに現実味に乏しいと言わざるを得ません。
ここでいう“現地パートナーとの協業”を強力に推進する打ち手こそ、弊社がご支援しているM&A/合弁組成、つまり資本を通じたパートナーシップと考えています。
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