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タイのLNG産業 - 政府はLNG取引の国際ハブ構想を掲げる




アジア市場における液化天然ガス(LNG)価格は高騰を続ける

アジア市場における液化天然ガス(LNG)価格は、2021年3月以降、平均6.4米ドル/mmBtuから2021年8月には平均16.9米ドル/mmBtuまで高騰を続けている。9月前半は平均21.3ドル/mmBtu、9月16日の日中価格は26.0ドル/mmBtuに達した。遡ること1月中旬には、32.5ドル/mmBtuまで高騰した(最高記録)。価格高騰の背景には、欧州やアジアでの猛暑による電力需要の増加に加え、ワクチン接種によるCOVID-19危機の緩和に伴う需要の回復がある。


Bloombergの予測では、世界のLNG需要は、2021年8月の2,970万トンから、2021年12月には3,480万トンのレベルに増加し、2022年1月には3,620万トンのレベルに達する。また、天然ガスの需要に大きな影響を与える石炭や排出権の価格にも注目される。最近、石炭価格は記録的に高騰しており、この点においても天然ガスが優位に立っている。また、ロシアからドイツへ天然ガスを輸送するNord Stream 2パイプライン(容量55BCM/年)の開始も市場に影響を与えるだろう。市場への供給が増えれば、更に価格が下がる可能性がある。現在、パイプラインの建設は既に完了しているが、設備のテストや安全・規制面での手続きは少なくとも今後4~8ヶ月間を要すると見られている。



LNGは輸送効率性と環境負荷の低さ、安全性等の観点から、中長期的に普及が継続すると見られる

LNG(Liquefied Natural Gas)とは、天然ガスを液体にしたもので、天然ガスパイプラインを使わない長距離輸送に便利なエネルギー源である。メタンを主成分とする天然ガスから、二酸化炭素、水銀、硫黄などの汚染物質や元素を分離して製造される。大気圧下で-160℃まで減圧すると液体になり、体積は約600分の1になる。


環境への影響が少ないことから、LNGの需要は過去5年間で大きく伸長した。LNGは、発電時の二酸化炭素排出量が少なく、石炭や重油に比べてコスト競争力に優れており、さらに原子力発電よりも安全性が高いことから注目を集めている。昨今のSDGs(持続可能な開発目標)やサステイナブル投資の規範的枠組みの整備と併せて、今後も市場として成長することが見込まれる。



タイ政府は、タイを国際的なLNG取引のハブにする構想を掲げる

タイは2011年からLNGを輸入しており、その量は年間600万トンから700万トンに達し、継続的に増加する傾向にある。政府はタイのガス市場の自由化を推進しており、タイを地域の貿易拠点とすることをも目指している。タイでは、冬の暖房需要がないことに加え、パンデミックの影響で産業用電力の使用量が減少しているため、LNGが供給過多になっている。しかし上述の通り、他国、とりわけ東アジアでは冬入りを前に需要が急増している。


今年、タイの国営にして同国最大のエネルギー複合企業であるPTTは、発電所用燃料をエネルギー多消費国に再輸出すべく、液化天然ガスを初めて日本に出荷した。約14万5,000立方メートルの貨物は、全量を火力発電に使用した場合、5,000万世帯の1日分の電力に相当する。現在、PTT社は1,150万トンのLNG輸入設備を保有しており、2022年までに750万トンの拡張を予定する。今後、日本に加え、韓国、中国、台湾といったLNGの大口購入国が多いという特徴を生かして、さらなる機会を探っていく方針という。


国内の需要が減少した場合、余剰分が発生するというリスクを抱えていることになるが、余ったLNGを海外に再輸出すれば新たな収入源ともなり、LNGの貯蔵コストも削減できる。今回のPTTによる試みは一過性のものに終わらず、中長期的な国策として継続されるだろう。


 

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